「世代は違っても目指す方向は同じだし、持っている感覚も近いので、そこがつながることで良いものを生み出せている」
●そして今回、1stミニアルバム『from a window』をリリースされるわけですが、制作はいつ頃から?
クロゴメ:レコーディングは2019年の7月にやっていました。レコーディングはあっという間に終わったんですけど、ミックスに意外と時間がかかってしまって。納得いくまでかなりのやり直しをエンジニアの方にもお願いして、最終的には非常に素晴らしい作品ができたと自分でも思っています。
●ミックスに時間がかかったんですね。
クロゴメ:レコーディングが2019年8月頭に終わって、そこからミックスに4ヶ月くらいかけたのかな。最初はミックスが自分の理想どおりにはなかなか上手くいかなったので、相当な時間をかけました。一度、振り出しに戻ってやり直しみたいなことまでやりましたね。
●それだけ目指す音像がはっきりとあった?
クロゴメ:音像はあったんですが、最初の頃はそれを自分たちも上手く説明できていなくて。エンジニアの方と色々な議論を繰り返しながらやっていったんですが、途中から急に「ああ、これだ!」という感じになってきたんですよ。キーワードとしてThe Stone Rosesの名前を出したら、そこから急に自分たちの求める音に近づいていったのはすごく面白いなと思いました。
●The Stone Rosesの1stアルバム(『s/t』)の感じですよね?
クロゴメ:そうです。1stのアルペジオみたいなキラキラ感を出したいと言ったら、急に音がイメージに近づいて。それがキーワードになって、あとはトントン拍子で進みましたね。
●共通言語がそこだったんでしょうね。エンジニアの方とも、世代が違ったんでしょうか?
クロゴメ:今回のエンジニアはKensei Ogataさんという方にお願いしたのですが、イワサワくんと同じくらいの世代だと思います。今回はイワサワくんのオススメで、若手エンジニアにお願いしてみたんですよ。同じ世代の人に頼んでいたら耳慣れた音を出してきてくれるので(ミックスは)もっと速く進んだのかもしれないですけど、Kenseiさん自身にもこだわりの音があると思うので、そことの接点をどこにするかというところで時間がかかったところはありますね。
●あえて若い世代のエンジニアさんと一緒にやることで、新たな感性も取り入れられたのでは?
クロゴメ:最初からそれを意識していたわけではなかったですが、やっているうちに若い人にしか出せないエッセンスが出てきたのかもしれないですね。Kenseiさんは今の時代のシューゲイザーやギターポップを熟知しているし、音に関する知識もすごく持っている方なので、そういう意味では良い要素を加えられたかなと思っています。
●そういうところも“90年代と今の架け橋”というコンセプトにつながってくる気がします。
クロゴメ:そうですね。自分とツチヤくんは、90年代に育ってきて。当時20代だった自分たちが今、20~30代くらいの人たちと一緒にやっている。ただ、目指す方向は同じだし、持っている感覚も近いので、そこがつながることで良いものを生み出すことができたんじゃないかなと思いますね。
●実際に今作を聴いて、単に“シューゲイザー”というジャンルには収まらない音になっていると思いました。
クロゴメ:自分たちのバンドを単に“シューゲイザーバンド”と紹介されたくない気持ちはあるんですよね。シューゲイザーを好きな人たちがやっているバンドではあるんですが、自分たちから出てくる音楽はそれだけではないから。どちらかといえばネオアコに近いような曲もやっていますし、そういう意味ではあまり(シューゲイザーという)言葉で誤解されたくないかなとは思っています。
●いわゆる“シューゲイザー”を想像して聴くと、良い意味で予想を裏切ってくれる作品にはなっていますよね。
クロゴメ:その“裏切り”をちょっと期待したいですね。特にM-3「glad to see you」なんかは、ほぼネオアコ~ギターポップ的な感じの曲だから。でも-2「from a window」はかなりシューゲイザー色の強い曲だったりするし、M-1「colors fade away」もRideっぽいシューゲイザー要素があったりして。そのへんの要素は大好きなので、自然に入っているかと思います。
●クロゴメさんの声質もエヴァーグリーンな蒼さがあって、そこがRideあたりに通じるところかなと思います。
クロゴメ:以前、Rideのマーク(・ガードナー)の声に似ていると言われたこともありますね。あと、この前のライブでPale Saintsの「Sight of You」をカバーしたんですけど、それもばっちりハマった気がして。自分のなかでボーカリストの頂点にいるのが、Pale Saintsのイアン・マスターズなんですよ。あのきれいな声に近づけられたら良いなとは思っているし、特に今回のレコーディングでは意識的にそういう歌い方をしました。
●そういうところも楽曲のエヴァーグリーンな雰囲気につながっているんでしょうね。楽曲のタイトルもすごく音楽性に合っているように感じます。
クロゴメ:そう言っていただけると嬉しいです。タイトルも含めて、歌詞は“メロディから落ちていく言葉たち”という感じになっていて。歌詞に関しては正直そんなにこだわっていないのですが、言葉の響きや意味としては自分たちの曲に合うものになっているなと思います。
●「from a window」は曲名だけでなく作品タイトルにもなっていますが、どんな意味が?
クロゴメ:昔、関西に住んでいた時に奈良の長谷寺に行ったことがあって。薄暗い境内から(窓を通して)外を見てみると、その中に切り取られた紅葉や緑の光景がものすごくきれいで、まるでそれ自体が絵のように感じた印象が頭の中に非常に残っていたんです。だから“窓に切り取られた光景”という題材で曲を作りたいとはずっと考えていて、そこから今回はこのタイトルをつけました。
●今のお話を聞いていて、1曲1曲が“窓に切り取られた光景”というイメージなのかなと思いました。
クロゴメ:全曲かどうかはわからないですけど、“そこに切り取られたもの”や“残されたもの”という意味では近いかもしれないですね。大切なものを切り抜いて、(曲にして)残していくというか。それを通じて、頭の中に浮かぶ光景や色というイメージは全体的にあるかもしれないです。
インタビュー後編
インタビュー前編